鳥類の検出ツールとしての環境DNAの可能性を実証

Demonstration of the potential of environmental DNA as a tool for the detection of avian species

はじめに

本研究は、鳥類の環境DNA (eDNA) を水試料から検出できるかを検証し、鳥類の検出に適したユニバーサルプライマー MiBird-U を設計・評価した論文です。 魚類・哺乳類向けの MiFish/MiMammal を基盤に 12S rRNA 領域(約 171 bp)を増幅するよう改良し、in silicoによる評価、22 種の組織 DNA による増幅試験、動物園の飼育ケージ水と野外池の水での実験を組み合わせて検証しています。 結果として、MiBird-U は鳥類に対して高い一致率を示し、動物園ケージ水では既知の対象種をすべて検出し、野外池でも複数の野鳥を検出しました。 本研究は、視認調査が難しい状況での鳥類多様性把握に eDNA メタバーコーディングが有効であることを示しています。

Introduction

鳥類は送粉や種子散布、昆虫食による植生保全など、陸域生態系の機能維持に深く関与しています。 一方で、都市化や森林分断などの人為的影響により鳥類群集の多様性が低下しつつあることが報告されています。 従来の視認調査は有効な手法ですが、夜間や森林内部の視界不良、調査者の同定スキル差といった制約も存在します。 そこで本研究では、鳥類が水辺で頻繁に水と接触するという生態的前提を活かし、水試料から鳥類の環境DNAを検出する手法が実用的かを検証しています。

Methods

プライマー設計と in silicoによる評価

プライマー設計では RefSeq から取得した鳥類 410 配列(2015-06-09)を用い、Mesquite で保存的領域の塩基組成を確認しながら設計しました。 3’末端には G/C を含めるが連続する G/C を避ける、テンプレートが C/T の場合は G を選ぶ、A/G の場合は T を選ぶといった設計指針を採用し、GC 含量は 40-60% とし、Tm は近似値になるよう OligoCalc で調整しています。 対象領域は 12S rRNA の挿入長約 171 bp で、MiFish/MiMammal を改変した MiBird-U (U = universal) として設計しました。MiSeq 用アダプタとランダム塩基を付与したプライマー配列は Table 1 にまとめています。

Table 1. MiBird プライマー配列(5’->3’)

PCRPrimer nameSequence
1st PCRMiBird-U-FACACTCTTTCCCTACACGACGCTCTTCCGATCT NNNNNN GGGTTGGTAAATCTTGTGCCAGC
1st PCRMiBird-U-RGTGACTGGAGTTCAGACGTGTGCTCTTCCGATCT NNNNNN CATAGTGGGGTATCTAATCCCAGTTTG
2nd PCR2nd PCR-FAATGATACGGCGACCACCGAGATCTACAC XXXXXXXX ACACTCTTTCCCTACACGACGCTCTTCCGATCT
2nd PCR2nd PCR-RCAAGCAGAAGACGGCATACGAGAT XXXXXXXX GTGACTGGAGTTCAGACGTGTGCTCTTCCGATCT

NNNNNN はランダム塩基、XXXXXXXX はインデックス配列。

設計したプライマーの結合性は、鳥類 410 配列に加えて、哺乳類 741 配列、両生類 197 配列、爬虫類 245 配列を対象に Ruby/Python のカスタムスクリプトでミスマッチ数を算出しました。 また、プライマー領域欠失を含むHemignathus munroiLoxops coccineusArborophila rufipectus を除外した 407 配列について、種間編集距離を算出し、種判別に十分な多型が含まれるかを評価しました。 さらに primerTree (R 3.3.1) を用いて in silico PCR、配列取得、系統樹再構築までを行い、増幅可能な分類群の広がりを可視化しています。

組織DNAの増幅試験

鳥類 22 種の組織 DNA を抽出し、NanoDrop Lite で濃度測定後 15 ng/µL に希釈しました。PCR は 15 µL 反応系(滅菌蒸留水 4.5 µL、2× Gflex PCR Buffer 7.5 µL、各プライマー 0.7 µL(5 µM)、Tks Gflex DNA Polymerase 0.3 µL、テンプレート 1.2 µL)で実施しています。

PCR 条件の詳細は下表の通りです。

項目条件
初期変性94°C 1 分
変性98°C 10 秒
アニーリング50°C 10 秒
伸長68°C 10 秒
サイクル数30
最終伸長68°C 7 分

対象種とアクセッション番号は Table 2 に整理しました。

Table 2. 増幅試験に用いた鳥類組織DNA(22種)

Common nameScientific nameAccession No.
Spot-billed duckAnas zonorhynchaLC104767
Grey nightjarCaprimulgus indicusLC104768
Ancient murreletSynthliboramphus antiquusLC104769
Lesser sand ploverCharadrius mongolusLC104770
Oriental turtle doveStreptopelia orientalis stimpsoniLC104771
Lesser cuckooCuculus poliocephalus poliocephalusLC104772
Northern goshawkAccipiter gentilis fujiyamaeLC104773
Common kestrelFalco tinnunculusLC104774
Chinese bamboo partridgeBambusicola thoracicusLC104775
Red-throated loonGavia stellataLC104776
Red-crowned craneGrus japonensisLC104777
Jungle crowCorvus macrorhynchosLC104778
Eurasian sparrowPasser montanusLC104779
Black-crowned night heronNycticorax nycticoraxLC104780
Great white pelicanPelecanus onocrotalusLC104781
Great cormorantPhalacrocorax carbo hanedaeLC104782
Japanese pygmy woodpeckerDendrocopos kizukiLC104783
Little grebeTachybaptus ruficollisLC104784, LC104785
White-chinned petrelProcellaria aequinoctialisLC104786
Short-tailed shearwaterPuffinus tenuirostrisLC104787
King penguinAptenodytes patagonicusLC104788
Humboldt penguinSpheniscus humboldtiLC327059

動物園および野外の池での採水

動物園での実験は、横浜市立よこはま動物園ズーラシアで 2016-12-13 に実施され、13 ケージ・16 種の飼育鳥を対象に採水しました(Table 3)。

Table 3. 動物園実験の対象鳥類(16種)

Common nameScientific nameOrderFamily
Steller’s sea eagleHaliaeetus pelagicusAccipitriformesAccipitridae
Black-tailed gullLarus crassirostrisCharadriiformesLaridae
CapercaillieTetrao urogallusGalliformesTetraonidae
Lady Amherst’s pheasantChrysolophus amherstiaeGalliformesPhasianidae
Ruddy shelduckaTadorna ferrugineaAnseriformesAnatidae
Temminck’s tragopanTragopan temminckiiGalliformesPhasianidae
Victoria crowned pigeonGoura victoriaColumbiformesColumbidae
Mandarin duckAix galericulataAnseriformesAnatidae
Humboldt penguinSpheniscus humboldtiSphenisciformesSpheniscidae
Snowy owlBubo scandiacusStrigiformesStrigidae
Oriental white storkCiconia boycianaCiconiiformesCiconiidae
White-naped craneGrus vipioGruiformesGruidae
Common craneGrus grusGruiformesGruidae
Southern ground hornbillBucorvus leadbeateriCoraciiformesBucerotidae
Harris’s hawkParabuteo unicinctusAccipitriformesAccipitridae
EmuDromaius novaehollandiaeStruthioniformesCasuariidae

a: 複数種が同居する通り抜けケージで飼育。

うち Ruddy shelduck は複数種が混在する通り抜けケージで飼育され、同一ケージ内の複数種が同時に検出される設計になっています。 各ケージの水 100-200 mL を 0.45 µm Sterivex で濾過し、RNAlater を約 2 mL 注入して 4°C で保管し、採水操作の陰性対照として蒸留水 3 例を持参しました。 また、未知組成の環境試料として千葉市の船田池からも同様の手順で採水しています。

DNA抽出、ライブラリ調製、シーケンス

Sterivex フィルターから DNeasy Blood and Tissue Kit を用いて DNA を抽出し、RNAlater 除去後に Proteinase-K 20 µL、PBS 220 µL、Buffer AL 200 µL を混合した 440 µL を添加し、50°C で 20 分の回転インキュベーションで溶菌した上で精製し、最終的に 100 µL で溶出しました。ライブラリ調製は前後工程を分離した環境下で実施し、PCR ネガティブコントロールを 2 サンプル設けています。

インデックスを付与した後、AMPure XP で精製し、約 370 bp を E-Gel SizeSelect でサイズ選択、Qubit で定量して 4 nM に調整し、MiSeq Nano v2 (2 × 150 bp) でシーケンスしています。

1st PCR の条件は下記の通りです。総反応液量は 12 µL です。

項目条件
2× KAPA HiFi HotStart ReadyMix6.0 µL
MiBird primer-F0.7 µL
MiBird primer-R0.7 µL
DDW2.6 µL
PCR template2.0 µL
項目温度時間サイクル
初期変性95°C3 分1
変性98°C20 秒35
アニーリング65°C15 秒35
伸長72°C15 秒35
最終伸長72°C5 分1

続いて、1st PCR 産物を 3 反復プールし、AMPure XP (1:0.8) で精製、10 倍希釈後、下記条件で 2nd PCR を実行しました。総反応液量は 24 µL です。

項目条件
2× KAPA HiFi HotStart ReadyMix12 µL
I5 primer (5 µM)1.4 µL
I7 primer (5 µM)1.4 µL
DDW7.2 µL
PCR template2.0 µL
項目温度時間サイクル
初期変性95°C3 分1
変性98°C20 秒12
伸長72°C15 秒12
最終伸長72°C5 分1

データ処理と種同定

FastQC と SUGAR で品質確認後、DynamicTrim.pl (Phred 10) で低品質末端を除去し、FLASH でペアエンドを結合(最小オーバーラップ 10 bp)しました。 さらに Perl スクリプトで不正長や不明塩基を除去し、TagCleaner でプライマー配列(最大 3 塩基ミスマッチ)を除去して FASTA 化しています。UCLUST によりデレプリケーションし、10 リード以上の配列を代表配列として保持し、10 リード未満の配列は 99% 以上一致する代表配列があれば同一とみなしました。

分類は Sarcopterygii のミトコンドリアゲノム(1,881 種、2016-03-15 時点)を基盤に構築したデータベースと、MitoFish に登録された魚類ミトコンドリア配列を統合したデータベースに対して BLASTN を実施し、同一率 97% 以上、E-value 1e-5 以下で最上位ヒットを種同定に用いています。 さらにアラインメント長/ミスマッチ数(例: 150/(1+1))の比を信頼性指標として算出しています。

Results and Discussion

MiBird-U は in silicoによる評価で高い一致率を示し、G/T ペアの許容下で MiBird-U-F は 410 種中 390 種(95.1%)、MiBird-U-R は 388 種(94.6%)と完全一致でした。

Fig. 1. MiBird-U の in silicoによる評価。ミスマッチ分布と primerTree による系統可視化。

さらに 99.5% および 96.8% の種が 1 ミスマッチ以内であり、3’末端では MiBird-U-F で全種一致、MiBird-U-R でも 98.7% 以上が一致しています(Table 4 と Fig. 1)。編集距離による評価では 82,621 組中 82,177 組(99.5%)が 5 以上となり、種判別に十分な多型が含まれることが示されました(Table 5)。

Table 4. MiBird-U の塩基組成(407 種の鳥類配列)

MiBird-U-F

Base1(G)2(G)3(G)4(T)5(T)6(G)7(G)8(T)9(A)10(A)11(A)12(T)13(C)14(T)15(T)16(G)17(T)18(G)19(C)20(C)21(A)22(G)23(C)
A1411010039740740700000000040700
C000611290002007407155000040740700407
G406403406004064070100000040704070004070
T0003452780040770040002524070407000000

MiBird-U-R

Base1(C)2(A)3(T)4(A)5(G)6(T)7(G)8(G)9(G)10(G)11(T)12(A)13(T)14(C)15(T)16(A)17(A)18(T)19(C)20(C)21(C)22(A)23(G)24(T)25(T)26(T)27(G)
A040704060002000407010407407000040601000
C4070000100000004060000407406404001051
G00004070407405407407001000000001405000406
T004071040600004070406040700407013024054074020

対象 410 配列のうちプライマー領域欠失 3 種を除外し、407 種の塩基組成を集計。

Table 5. 編集距離の頻度分布

Edit distance01234>=5Total
Species27506711318782,17782,621
Genus10234080157

primerTree による評価では鳥類の増幅だけでなく、哺乳類・両生類・爬虫類・魚類も増幅しうることが示され、鳥類に限定しない多分類群の同時検出にも使える設計であることが示唆されます。

組織 DNA では Table 2 に示した 22 種すべてで増幅に成功し、配列は DDBJ に登録されています。 動物園ケージ水では 16 種すべての対象鳥類が検出され、対象種のリード比率は 1.4-94.9% と幅がありました。

特に Steller’s sea eagle(オオワシ)、Capercaillie(ヨーロッパオオライチョウ)、White-naped crane(マナヅル)、Common crane(クロヅル)、Southern ground hornbill(ミナミジサイチョウ)などは 64.9-94.9% と高い比率で検出されましたが、Black-tailed gull(ウミネコ)、Humboldt penguin(フンボルトペンギン)、Snowy owl(シロフクロウ)などは 1.4-28.8% と低い割合にとどまっています。 これは水への接触頻度や行動の違いによると考えられ、環境DNAの検出量が行動や環境条件に左右されることを改めて示しています。

Ruddy shelduck(アカツクシガモ)の通り抜けケージでは、同居種である Lady Amherst’s pheasant(ギンケイ)、Temminck’s tragopan(ベニジュケイ)、Victoria crowned pigeon(オウギバト)、Mandarin duck(オシドリ)が同時に検出され、ケージ内の混在環境が反映されました。

非対象種の検出も多く、例えばオオワシの配列が他ケージで検出されるなど、飼育者の移動や風による DNA 移動、共用器具による混入など複数の要因が考えられます。 野外の池の水では調査地周辺で観察される鳥類 5 種が検出され、既知種以外の環境での有効性も示されました。 これらの結果は、視認調査が難しい状況での補完的手段として環境DNAメタバーコーディングが有効であることを示しています。

免責事項

十分注意は払っていますが、本記事の情報・内容について保証されるものではありません。また、本記事の利用や閲覧によって生じたいかなる障害についても責任を負いません。そして、本記事の情報は予告なく変更される場合がありますので、ご理解くださいますようにお願い申し上げます。

また、codexによるサポートを受けて記事を作成しています。